「紅蓮の手はあったかいね」
と手を繋いでいた子供が言うので、紅蓮は驚いてその小さなつむじを見下ろした。触れあった手のひらと手のひらの間で熱は溶けあって、彼にはもうどちらのものなのか判別ができない。けれど一番初めに触れたとき、より高い熱をもっていたのはこの子供のほうで、紅蓮の手のひらはただ大きいばかりで人をあたためる術などわからなかった。――知らなかったのだ。
「よく、手の冷たい人は心があたたかいって言うけど、」
ちらりと紅蓮を見上げて子供は笑う。
「俺はあれ、嘘だと思う」
どうして、と思わず聞き返すと、子供は片手で紅蓮の胸を指さした。
「紅蓮の焔があったかいのも、あんなに綺麗に輝くのも、きっとここがあったかいからだよ」
迷わずにきっぱりと言い切る子供の顔は自信に満ちていて、紅蓮は思わず言葉を失った。眉をひそめていたのが相当情けない表情だったのだろう。子供は吹きだしながら、背伸びをして紅蓮の胸板を叩いた。
「紅蓮はきっと自分のことだからわかんないんだね」
おかしそうに笑いながら、子供は紅蓮の腕を引っぱった。小さな背が先立って歩いていく。最初にその指に触れた瞬間を思い出し、眩暈が起こるような感覚を覚えて、紅蓮は幼い手をきつく握りしめた。
この小さな手のひらや育ちきっていない体を抱くときに、彼はいつも逡巡する。雪山の中で主人を傷つけたそのときから、熱い血潮は濡れて絡みつき、紅蓮の両手をいつも冷やしていた。熱は奪われるばかりで、鮮血は赤く燃える焔に取って代わっていた。
……そのはずだったのに。
自分のすべてをあたたかいと、そう言い切ってくれるこの幼い人の子のために、もしかしたら、もう捨てるべきものがあるのかもしれない。