紅蓮より小さな指が、籠手を外した褐色の肌の上を滑っている。
彼の手を弄っている昌浩の表情は窺い知れない。顔を伏せたまま、ずっと無言でいる昌浩の心中を推し量ることはできず、紅蓮は戸惑いながらただ子供の好きにさせていた。
丸い爪が生えた幼い指が、紅蓮の鋭い爪を辿る。指の腹が触れる感触に、彼は反射的に腕を引こうとした。だが思いもかけぬ強い力にそれはかなわず、紅蓮は驚いて力を込めている昌浩を見やった。
先ほどまで伏せていた顔を上げ、昌浩がまっすぐに紅蓮を見据えている。
黒い瞳に光を灯し、小さな唇が動いた。
「どうして逃げるの」
再度紅蓮の爪に指がかかる。ゆっくりと、その爪に自らの肌を食いこませながら、昌浩は片手を伸ばした。ぷつりと皮膚が断ち切れる音が部屋に響き、紅蓮は血の気が引く思いでその手を取った。
「何をしている、やめろ」
「十二神将の理の境界線は、一体どこだと思う?」
昌浩は紅蓮の制止に答えない。
ぽたりと板の上に雫が垂れる。
紅蓮は全身を強張らせてそれを凝視した。けれど昌浩は己が流す血など興味がないといった様子で、さらに肉を食いこませている。
「人間に血を流させたら駄目なのか。骨を折ったら駄目なのか。朱雀がしたみたいに軽く殴るくらいまでなら大丈夫なのか。
……理の定義は誰が決めるの」
「知らない、いいからもうやめろ」
「心配しなくても、今しているこれは理には触らない。これは俺が自分で自分を傷つけているだけだから」
「そういう問題じゃないだろう!」
赤く濡れた指を引き剥がし叫ぶ。すると昌浩は美しく笑んで、自身の血で汚れた黒い爪に唇を寄せた。
「わかってるよ。
……それはちゃんと、わかってる」
やわらかくあたたかい舌が鮮血を拭っていく。瞼を伏せ、ゆっくりと、血がけしてこびりつかないよう慎重に舌を動かすその様にぞくりと背筋を震わせ、紅蓮は昌浩の肩を掴んだ。昌浩は紅蓮の指を口に含んだまま、ちらりと彼を見上げる。
緩慢に指を引き抜けば、糸を引いた銀の雫がひとつ、板の上に落ちる。
銀と混じった赤は滲んで、その色を薄めた。