隔たりがある。
それは紙のように薄く、氷のように冷たく、紅蓮と昌浩の間にそびえたっている。もう出雲の地に春が訪れて随分経つのに、それは融ける兆しを見せない。それをつくったのは昌浩自身だったのだが、昌浩自身の意思から生み出されたものではなかった。昌浩の行動の結果、彼の予期しないところでそれはできてしまったのだった。それを取り払いたくて昌浩は何度も指を這わせたが、指ではなく足を一歩踏み出せば、薄氷は割れ細かな破片が紅蓮を傷つけてしまうだろう。紅蓮は冷たいものに弱い。そのことを思うと、昌浩はどうしても動くことができなかった。
だからこの氷を解かす者は紅蓮でなければならない。紅蓮が顔を上げなければ、決して氷壁は融けないのだ。
それがわかっているから、昌浩は今日も紅蓮の名を呼び続ける。紅蓮に声が届くことを祈りながら。